抄録
<目的>ポリアミンはほぼすべての生物に普遍的に存在している生理活性アミンであり、細胞増殖や各種ストレス適応に関与している。細胞内のポリアミン濃度は、生合成反応における律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素、アルギニン脱炭酸酵素、及び細胞膜輸送系によって調節されている。ラン藻 Synechocystis sp. PCC6803 は比較的高い塩濃度でも生育し昼間は明るいところで光合成を行うなど、変化の大きな環境で生育していることからポリアミンの関与が考えられる。本研究ではラン藻の環境適応に関するポリアミンの役割の解明を目的として、ポリアミンの生合成酵素、及び浸透圧適応について検討した。
<結果、考察>高浸透圧条件において、培地にポリアミンを添加するとラン藻の生育阻害が緩和され、さらに短時間の浸透圧ショックで細胞内のポリアミン濃度が上昇した。また、ラン藻にはアルギニン脱炭酸酵素をコードすると予想される遺伝子が二つ(adc1、adc2)存在する。これらの候補遺伝子のノックアウトもしくはノックダウンしたラン藻変異株を作成したところ、変異株はポリアミン要求性を示した。さらにこれら変異株のアルギニン脱炭酸酵素活性を測定したところ、野生株に比べ活性が低いことが明らかになった。これらにより、ポリアミンは浸透圧適応に関与し、ADC1とADC2はその生合成に関与していることが示唆された。