抄録
陸棲ラン藻 Nostoc commune (イシクラゲ)は地球上の陸地に広く分布し,数珠状に連なった細胞が細胞外多糖類に包まれたコロニーを形成している。N. commune は強い乾燥耐性を持ち,乾燥や塩ストレスによってトレハロースを適合溶質として蓄積することが示されている。本研究では,N. commune に近縁で,すでにゲノム配列が解読されている N. punctiforme を用いて,乾燥過程におけるトレハロースの蓄積とその制御機構の解析を行った。N. punctiforme でも乾燥によりトレハロース量が増加し,5 μ mol/g 乾重量以上のトレハロースを蓄積した。トレハロース代謝系酵素の遺伝子は,ゲノム上に近接している。トレハロース合成酵素遺伝子( treYZ ),分解酵素遺伝子( treH )の転写産物量は乾燥処理 1 時間で増加した。N. punctiforme 粗抽出液中のトレハロース合成活性は 0.5 U/g protein,分解活性は 50 U/g protein であった。トレハロース合成活性は 50 mM NaCl を加えても影響されなかったが,分解活性は約 20% まで活性が減少した。Tris バッファーは合成酵素へ影響を与えなかったが,分解活性は阻害された。以上の結果はトレハロースの蓄積は主に分解活性の調節によって制御されていることを示唆する。