抄録
翻訳系は酸化ストレスに対してきわめて感受性が高い。近年、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803のin vitro翻訳系を用いた研究から、翻訳伸長因子elongation factor G (EF-G)の酸化が翻訳活性の酸化的傷害の要因になっていることが明らかになっている。したがって、EF-Gの酸化還元状態が細胞全体の酸化ストレス耐性に影響を与えていることが示唆される。本研究では、EF-Gの酸化と細胞の酸化ストレス耐性との関係を明らかにするため、EF-Gを過剰発現させたラン藻の酸化ストレス耐性を調べた。
EF-G過剰発現株では、過酸化水素存在下においてタンパク質合成が促進された。この結果から、過剰のEF-Gによってタンパク質合成の酸化的傷害が抑制されていることが示唆される。さらにEF-G過剰発現株では光化学系IIの光阻害が緩和された。この株では、強光下で発生した活性酸素によるタンパク質合成の阻害が抑制され、光化学系IIの修復が活性化されていることが推測される。EF-Gの酸化は特定のシステイン残基のジスルフィド結合によることが判明しており、現在、標的システインをセリンに変えた改変EF-Gを発現するラン藻を作製している。この結果と合わせ、翻訳系の酸化ストレス感受性の生理学的意義について議論する。