抄録
植物の葉面温度は、蒸散率により変化するため、気孔の開度の尺度となる。cdi3(carbon dioxide insensitive 3)は、CO2依存的な葉面温度変化を指標に単離され、高CO2による気孔閉鎖が阻害された変異体である。その原因遺伝子は、孔辺細胞の細胞膜に特異的に発現する有機酸トランスポーター様のタンパク質をコードしていた。気孔におけるCDI3タンパク質の役割を明らかにするため、野生株とcdi3変異体の孔辺細胞プロトプラスト(GCP)におけるイオン含量を比較した。その結果、cdi3 GCPでは野生株GCPと比較して、気孔の開閉に関わるアニオンであるリンゴ酸2-やCl-などが高蓄積していた。以上の結果より、CDI3タンパク質は、気孔における細胞膜を介したアニオン輸送に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、シロイヌナズナには、CDI3と相同性の高い遺伝子が数個存在するが、それぞれの遺伝子が差次的な組織特異性を示し、とりわけCDI3のみが気孔特異的に発現していた。またホモログ遺伝子をcdi3変異体の気孔において異所的に発現させると、cdi3変異体に見られた恒常的な気孔開口とイオンの高蓄積が共に機能相補されたことから、CDI3ファミリーの機能は類似しており、気孔以外の他の組織にも共通したアニオン輸送システムが存在する可能性を示唆している。