抄録
海産微細藻類である円石藻Emiliania huxleyi は,細胞内で石灰化を行い,ココリス(円石)と呼ばれる構造体を作って細胞表面に保持する。近年,円石形成促進時に発現量が変動する45遺伝子が同定されたが,その多くが機能未知タンパク質をコードしており,また機能が予測された遺伝子についてもどの様に円石形成に関わるのかは不明である.
我々はE. huxleyi でリン酸欠乏条件または低温条件で石灰化が促進されるという知見を基に,新規合成タンパク質量に占める割合が,2つの石灰化促進条件で特異的に上昇するタンパク質を探索した。その結果,見かけの分子質量が32-kDaのタンパク質を見出し,そのタンパク質のN末端配列を同定した.ESTデータベース検索の結果,推定アミノ酸配列の分子質量が20.4-kDaのタンパク質の配列と一致することが分かった.このタンパク質は一次配列から,FK506-binding protein(FKBP)と高い相同性を有するドメインとEF-handモチーフを持つ,小胞体局在タンパク質と予測された.また,精製タンパク質と推定アミノ酸配列の分子質量が異なることから何らかの翻訳後修飾がある可能性が考えられた.以上のことから,このタンパク質はEF handを介してカルシウムを結合するか,カルシウム濃度依存的に他のタンパク質の活性制御を行い石灰化に関与する可能性が考えられた.