抄録
光化学系II複合体(PSII)の中心部分は原核生物から真核生物まで高度に保存されているが、酸素発生に必要な表在性タンパク質や低分子量サブユニットの一部は生物種によって異なっている。PSIIの立体構造は、原核生物であるラン色細菌由来のものについて報告されているが、真核生物由来のものについては報告されていない。紅藻は、原核生物に最も近い真核藻類の一つであり、その光化学系も、ラン色細菌と高等植物の間に移行している段階にあるといえる。紅藻PSIIには、20 kDaという、ラン色細菌に存在しない、4つ目の表在性タンパク質が結合しており、このような紅藻とラン色細菌のPSIIの構造上の違いを明らかにするためには紅藻PSIIの立体構造解析が必要である。そのため本研究では紅藻Cyanidium caldarium由来PSIIの結晶構造解析を目的として、PSIIの精製・結晶化を行っている。C. caldariumからPSIIの結晶を得たことはすでに昨年度の本大会で報告したが、分解能が低く構造解析が行えるまでには至っていなかった。今回、結晶の分解能を向上させるため結晶化条件の改良を行い、3.8Å分解能の回折データを得ることに成功したので、その詳細について報告する。なお、この結晶の回折データを用いて、現在紅藻PSIIの構造解析を進めている。