抄録
ビタミンE(α-トコフェロール)は一重項酸素やフリーラジカルを消去する抗酸化物質であり、植物やラン藻の生体膜中にも含まれている。ビタミンEを欠損した植物では、脂質の過酸化や光合成の光阻害が促進することから、光酸化ストレスに対する防御的な役割が示唆されているが、そのメカニズムの詳細は明らかではない。本研究では、ビタミンEの合成に必要な遺伝子slr0090を欠損させたラン藻Synechocystis sp. PCC 6803 を用いて、光化学系IIの光阻害に対するビタミンEの保護作用を解析した。
ビタミンE欠損株と野生株に強光(1,500 μE m-2 s-1)を照射して光化学系II活性を測定した結果、ビタミンE欠損株ではより顕著な活性の低下が見られた。この結果から、ビタミンEの欠損によって光阻害が促進することが示唆される。次に、タンパク質合成阻害剤であるクロラムフェニコールの存在下で光阻害の様子を調べた結果、ビタミンE欠損株と野生株ではともに光化学系II活性が大きく低下し、両者に差が見られなかった。したがって、ビタミンEの欠損は光化学系IIの光損傷の過程に影響を与えるのではなく、光化学系IIの修復を阻害することが示唆される。以上の結果から、ビタミンEは一重項酸素やフリーラジカルを消去することによって、光化学系IIの修復阻害を緩和していることが推測される。