抄録
花粉母細胞の減数分裂により生じた小胞子は、その後の花粉成熟過程で受粉・発芽・受精に備えた体制を構築する。四分子期一過的、タペート層特異的に発現し、PHDフィンガーモチーフを含む核タンパク質をコードする、シロイヌナズナMS1遺伝子は、初期の花粉成熟過程を制御する転写因子である。ms1突然変異体では特徴的な花粉壁エキシン構造が見られないことから、MS1はエキシン形成に必要な遺伝子群を制御していることが示唆された。一方、MS1に制御される遺伝子には、一連の脂質及びフェニルプロパノイドの生合成・代謝系遺伝子群が含まれていた。エキシンは、スポロポレニンと呼ばれる脂質とフェニルプロパノイドから成る重合体を主成分とすることから、これら遺伝子はスポロポレニンの生合成酵素遺伝子の可能性がある。メタボローム、遺伝学、分子生物学等を用いた解析から、これら遺伝子群の機能を考察する。