抄録
キュウリは同一個体上に雌花と雄花を分化する雌雄異花同株植物である。キュウリの性分化は,がく,花弁,雄蕊,雌蕊の各原基を形成する両性花的な発育段階を経た後,雄蕊または雌蕊原基の選択的な退化によって起こる。そのため,雌花には雄蕊原基の痕跡が,雄花には雌蕊原基の痕跡が認められる。雌花における雄蕊原基の退化はプログラム細胞死(PCD)を伴うことが知られているが,雄花における雌蕊原基の退化とPCDの関係は不明である。動物では,PCD,増殖,分化,組織の三次元構築には細胞外マトリックス(ECM)が重要な役割を果たす。ECMは細胞から分泌された高分子の複合体であり,マトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)によって分解される。近年,キュウリ子葉からMMPをコードする遺伝子Cs1-MMPが単離され,その発現は子葉でPCDがおこる直前に強いことが示された。本研究ではキュウリの性分化に伴う生殖器官の退化におけるMMPの関与を調べるために,花器官におけるCs1-MMPの発現をRT-PCRサザン分析法で解析した。その結果,Cs1-MMPは雄花の発育ステージを通じて,がくと,雌蕊原基が退化した領域で強く発現した。特に,雌蕊原基が退化した領域での発現は,雄花の発育ステージが進むにつれて強くなった。雌蕊原基が退化した領域におけるCs1-MMPは,キュウリの性分化と雄花の発育に重要な役割を果たす可能性がある。