抄録
色素体は、藍藻由来の細胞内小器官であり自身のゲノムと独自の遺伝子発現系を持っている。葉緑体への分化過程における葉緑体遺伝子の発現は厳密に制御されており、特に藍藻に由来するバクテリア型RNAポリメラーゼ(PEP)による光合成遺伝子の転写調節が重要であることが分かっている。しかし、葉緑体から調製された転写活性の高い画分内(pTAC: plastid transcription active chromosome)にはPEPだけでなく、藍藻にホモログの無い複数のタンパク質が検出されている。このことは、藍藻とは異なった高等植物独自の葉緑体遺伝子発現制御機構の存在を示唆するが、pTACタンパク質の分子機能は、ほとんど解析されていない。pTAC3は、真核生物のmatrix attachment regionの結合に関わるDNA結合ドメイン(SAPドメイン)を持ち高等植物のみに存在するタンパク質である。Gel shift解析によりpTAC3のSAPドメインは、配列非特異的なdsDNA結合性を有していることが示された。また、pTAC3のノックアウト変異体は葉が白色化する表現型を示し、その変異体における転写パターンを調べた結果、PEPによる転写産物の蓄積が大きく減少することがわかった。これらの結果よりDNA結合タンパク質pTAC3は、PEPによる遺伝子発現制御に関わっていることが示唆された。