抄録
スギ(Cryptomeria japonica D. Don)は、わが国の主要な造林樹種であり、日本人の生活に深くかかわってきた。遺伝子組換え技術による特定形質の付与は、より社会から求められる品種の作出を実現すると期待される。しかし、組換え体を野外に出すにあたり、導入遺伝子の同種野生植物への拡散が懸念されている。その媒体となるのが花粉であるが、花粉を作らなくすればその可能性は軽減される。さらにスギの雄性不稔化はスギ花粉症の緩和にもつながる。
シダレカンバ等いくつかの植物種において、花器官特異的な発現を司るプロモーターにRNase等の遺伝子をつないだ構築物を導入することによって雄性不稔個体の作出に成功したことが報告されている(Lannenpaa et al.,2005)。我々はスギにおいて同様の手法を試みるために、スギ雄花特異的に発現する遺伝子を単離した。雄花形成過程の異なる3時期(花粉分化初期、花粉四分子期、成熟花粉期)を選択しSuppression Subtractive Hybridization法をおこなった。その結果、成熟花粉期のライブラリーにはヒマワリにおいて葯特異的に発現する細胞壁タンパク質、SF18と高い相同性を示すクローン等が含まれていた。これら遺伝子の転写調節領域をTAIL-PCR法を用いて単離した。現在、雄花特異的な発現を司るシスエレメントの解析を進めている。
本研究の一部は農林水産省「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」の一環としておこなった。