抄録
ラン藻のABC型HCO3-輸送体BCT1は無機炭素濃縮機構(CCM)の構成成分の1つである。BCT1をコードするcmpオペロンは、他のCCM関連遺伝子群と同様にCO2欠乏に応答して転写が誘導される。我々は、以前にcmpオペロンの転写制御にLysR型転写制御因子CmpRが関与すること、cmpオペロンの上流領域に低CO2に応答した転写誘導に必要な領域が存在することを明らかにした。本研究では、in vitroでCmpRがcmpオペロン上流領域に結合することを確認し、リブロース1,5-二リン酸(RuBP)と2-ホスホグリコール酸(2-PG)が結合を促進することを明らかにした。RuBPは、光合成細菌RhodobacterのCbbRの場合とは異なり1mM以上の比較的高い濃度で結合を促進し、2-PGは10μM以上の低濃度で結合を著しく促進した。一方、他の光合成細菌や化学合成細菌で結合促進効果が報告されている3-ホスホグリセリン酸(3-PGA)やNADPHはラン藻においては結合促進効果を持たなかった。3-PGA、2-PGはいずれもルビスコの触媒反応の生成物であるが、2-PGはRuBPとO2の反応(オキシゲナーゼ反応)によってのみ生成する物質である。ラン藻のCO2欠乏に応答したCCMの誘導にはO2が必要であることから、CO2欠乏条件下ではルビスコのオキシゲナーゼ活性によって生じる2-PGがCO2欠乏のシグナルとして作用していることが示唆される。