抄録
我々は,実際に酸性土壌に生育している野生植物を材料に用いて,植物の酸性ストレス耐性機構の解明を目的とした研究を行っている.ここでは,東南アジアの酸性硫酸塩土壌に生育するイネ科のPanicum repensとマメ科のAcacia mangiumを植物材料に使用し,ディファレンシャルディスプレイ法を用いて酸性ストレスに応答する遺伝子の網羅的な転写解析を行った結果を報告する.P. repensでは根,A. mangiumではカルスを,硫酸でpHを調節した培地(pH 6.0とpH 3.0)で生育させ,1時間後と24時間後に全RNAを抽出してランダムプライマーを用いてRT-PCRを行った.PCRの結果,up-またはdown- regulateされたと思われる遺伝子断片が,P. repensではそれぞれ127と61断片,A. mangiumでは80と32断片検出された.それらの遺伝子断片をクローニングし塩基配列を決定したところ,エネルギー代謝やアミノ酸合成,膜輸送,シグナル伝達,転写調節などに関わると思われる遺伝子であった.そして,それらの多くは実験に用いた系統的に離れた2種の間に共通して検出された.