抄録
土壌の酸性化に伴い、過剰に存在する水素イオンが植物の生育阻害要因となる。低pHによるストレスは、水素イオンとの置換によって細胞膜表面のカルシウムイオン欠乏を引き起こすとされる。また、イオン強度の低い溶液系において、根部細胞膜の不可逆的な破壊を生じることが報告されている。しかし、低pHストレスに対する生理学的な知見は乏しく、酸性土壌でのストレス要因として注目されることは少ない。本研究では、低pH及びアルミニウム(Al)によるストレスを評価するため、低pH超感受性変異体を用いて水耕試験系及び酸性土壌での生育試験を行った。
短時間での低pHストレスは、通常の系統及び低pH超感受性変異体ともに、カルシウム添加量の増加によって根伸長阻害及び細胞膜破壊の軽減が認められ、同様の阻害様式を示した。これらのことから、変異体の低pHに対する超感受性表現型は、長期の水素イオン障害によって生じると考えられた。また、Alを含む酸性土壌では、低pH及びAl超感受性変異体ともに著しい生育阻害が認められた。一方、石灰施用区では、Al超感受性変異体は生育が通常の系統レベルまで回復したが、低pH超感受性変異体では回復が認められなかった。従って、酸性土壌において水素イオンが生育阻害要因として存在することが示唆された。