抄録
苔類ゼニゴケは現世陸上植物の最も基部に位置する植物種である。雌雄異株で、単純な体制や半数体世代中心の生活環を持ち、また、胞子発芽など1細胞の挙動を観察するのが容易であるという特徴を備える。昨年、米国エネルギー省JGIによる全ゲノム解析計画が始動した。当研究室では、ゼニゴケの実験モデルとしての可能性に着目し、分子遺伝学を行なうための基盤整備を行なってきた。まず、光質による生長相制御の技術を確立し、実験室環境下における人工交配を可能にした。胞子を白色蛍光灯下で約1か月培養後、遠赤色光照射により生殖生長相へ移行させる。そして、成熟した雄性生殖器から精子を採取し、雌性生殖器にかけ、受精させることで次世代の胞子を獲得することができた。胞子から約3か月で次世代の胞子が得られ、変異表現型の分離を調べるのも容易となった。また、この技術を用いて、当研究室で維持されている標準雄株系統と新たに採取した別系統の雌株との間のDNA多型を利用して遺伝地図を作製している。一般的に、2倍体生物ではマッピング集団としてF2世代が用いられるが、半数体のゼニゴケではF1世代を用いて連鎖解析を行なうことができる。現在までに約50個のマーカーを遺伝地図として配置している。作製した遺伝地図を交配法や変異株作成技術と組み合わせることで、ゼニゴケにおいて正遺伝学をおこなうことが可能になる。