抄録
3価の金属カチオンの多くは植物毒性をもつことが知られ、中でも酸性土壌におけるアルミニウムイオン(Al3+)は、根における細胞分裂や細胞伸長を阻害する因子と考えられている。タバコ培養細胞を用いた研究等から、Al3+により誘導される活性酸素種の生成が決定因子となって、細胞増殖の阻害や細胞死が誘導されることが示唆されている。一方、酵母を用いた研究から二糖類のトレハロースが酸化ストレスから細胞を保護するという報告がある。本研究では、トマト培養細胞を用いて、Al3+により誘導される活性酸素種(スーパーオキシド)生成、および細胞死を指標に4種類の糖、フラクトース、グルコース、スクロースおよびトレハロースの効果を調べた。それぞれの糖を加えたMS培地を用いてトマト細胞を培養し、Al3+処理を行った。その結果、低濃度のAl3+処理において、実験に用いた4種類の糖の全てにAl3+誘導の細胞死を抑制する傾向が見られたが、高濃度のAl3+処理においては、トレハロースの細胞死抑制効果が高かった。さらにトレハロースは、高濃度のAl3+処理において、スーパーオキシド生成に対する阻害効果が最も高かった。これらのことから、トレハロース処理はAl3+誘導の酸化ストレスを緩和し、細胞死を抑制すると考えられる。