抄録
イネといもち病菌の感染初期相互作用において、いもち病菌が産生する自身の感染を促進させる因子の存在は長い間議論されてきたが、未だ明確な結論は得られていない。我々は葉鞘接種検定法を用いて、イネ(品種:日本晴(Pia))に対して親和性のいもち病菌(稲86-137)の胞子を回収する際に得られる胞子懸濁液の上清に、感染を促進する効果があることを見いだし、この活性因子を感染補助因子と名付け詳細に解析した。本活性は、日本晴(Pia)に対して親和性の5菌株及び非親和性の3菌株に確認され、イネいもち病菌に普遍的に存在することが強く示唆された。また、本活性は親和性相互作用において顕著であり、非親和性の組み合わせでは殆ど感染を促進しなかった。さらに、イネ以外のいもち病菌のイネへの感染には効果がないことを確認した。本因子は100℃、15分の熱処理によって失活せず、熱安定な物質であることが明らかとなった。そこで本因子の同定を目的に稲86-137胞子懸濁液上清を酢酸エチル可溶性画分、メタノール可溶性画分および水溶性画分に分画したところ、感染補助因子はメタノール可溶性画分に含まれることが分かった。さらに活性を指標に逆相カラムを用いたHPLCによって精製を進め、2つの活性画分を得た。そのうち一つについて精製を進め、1H-NMRによる構造解析を行ったのでその結果を併せて報告する。