抄録
イネの培養細胞系において特定サイズのキチンオリゴ糖がエリシターとして種々の生体防御反応を引き起こすことが知られている.我々はこの培養細胞の系を用いてキチンオリゴ糖エリシター処理後数分で発現誘導されるGRASファミリー遺伝子,CIGR2を単離し,詳細な解析を行ってきた.これまでに,RNAiによるCIGR2発現抑制形質転換イネへの非親和性イネいもち病菌接種実験から,抵抗性反応の一つであり細胞死の前兆とされているイネ細胞内への顆粒物質の蓄積をCIGR2が負に制御していること,プロモータ解析などから,熱ショック転写因子(HSF)がCIGR2の下流で働いていることを示してきた.今回,CIGR2の細胞死への関与を解析するために,CIGR2・RNAiイネの培養懸濁細胞を作成し,エリシター処理した時の細胞死について調べたところ,エリシター処理の有無にかかわらずWTに比べて細胞死が有意に増加しており,CIGR2が細胞死を負に制御していることをさらに強く示唆する結果を得た.また,HSF・RNAiイネへの非親和性いもち病菌接種においても顆粒物質蓄積が増加していることが明らかとなり,CIGR2がHSFを経由して細胞死を抑制するシグナル伝達経路の存在が示唆された.現在,HSFのシス配列解析および酵母ワンハイブリッド法による解析から,HSF発現の制御因子としてMyb転写因子を候補として同定しており,その結果についても報告したい.