抄録
ホスホリパーゼD(PLD)は植物の生育や環境ストレス、植物ホルモンの応答などに重要な機能を有していることが知られている。イネゲノムには少なくとも16種類のPLD遺伝子が存在することが推定されているが、それぞれの生理機能は不明である。イネにおけるPLDの生理機能を解析するために、組織で発現しているPLD遺伝子について、それぞれRNA干渉(RNAi)による遺伝子発現抑制系統を形質転換で確立し、その表現型を解析した結果、OsPLDβ1-RNAi系統が病原菌感染のない状態で過敏感反応を誘導していることがわかった1)。このRNAi系統の病原菌の感染に対する抵抗性反応を、いもち病菌(Pyricularia grisea)を用いて解析した結果、感染は成立しているが、圃場抵抗性のように病斑の伸展が抑制されることにより、抵抗性が大幅に上昇することがわかった。従ってOsPLDβ1は病原菌の感染後の防御応答を負に制御していることが示唆された。RNAi系統とWild type(WT)における種々の比較解析を行った結果、RNAi系統の組織の活性酸素種のレベルがWTの約3倍以上に上昇していること、PBZ1などの防御関連遺伝子以外に、多数の遺伝子発現が大幅に変化していることが明らかになった。
1) Yamaguchi et al. PCP supplement, 2007, p254