抄録
甲状腺ホルモン (Thyroid hormone) は脊椎動物の代謝・発生・分化・成長・変態・細胞死になど関わる重要なステロイドホルモンであり、核内受容体である甲状腺ホルモン受容体 (TRβ1) と結合し、標的遺伝子の転写調節を行う。このような動物の核内受容体を利用した植物でのケミカルインダクションシステムには、エストロゲン受容体や副腎皮質ホルモン受容体を利用したものが知られている。しかし、これらのシステムはリガンドの必要量が多かったり、誘導に組織特異性が有ったりして、必ずしも広く普及しているわけではない。従って低濃度のリガンドに鋭敏に応答し、全組織で標的遺伝子の発現を誘導可能なシステムが求められる。
シロイヌナズナに TRβ1 リガンド結合ドメイン (TRβ1-LBD) と大腸菌由来のリプレッサーDNA結合ドメイン (LexA-DBD) を連結したエフェクター1遺伝子、転写コアクチベーター (TIF2) と転写増幅ドメインであるVP16 を5 コピー連結したエフェクター2遺伝子、及びレポーター遺伝子を連結させたプラスミドを導入し、リガンドとTRβ1-LBDとの結合によりTIF2-VP16×5をリクルートし、レポーター遺伝子の転写を活性化するという植物ツーハイブリッドシステムを構築した。これは100 pMという超低濃度の Thyroid hormone に応答し、葉でも根でも同様にレポーター遺伝子の発現を誘導した。