抄録
転写終結領域は、RNAポリメラーゼのDNAからの解離、mRNAの切断やポリA鎖付加などのプロセッシングに関与する。そのため、適切でない転写終結領域を用いた場合、転写終結が不完全となり、導入遺伝子の正味の発現量の低下に加え、リードスルーによる下流遺伝子の発現量の低下をもたらす危険性がある(転写干渉)。
そこで我々は、一般に広く利用されているアグロバクテリウム由来のノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Tnos)を用いた場合に転写干渉が起きるかを調べた。まず、熱誘導性HSPプロモーター::EGFP::Tnosの下流に構成的な35S::GUS::Tnosを連結した構築を導入した形質転換BY-2個体を用いて、上流遺伝子の転写が下流遺伝子の発現に与える影響を解析した。その結果、熱処理によってEGFP遺伝子を発現誘導すると、通常温度で発現していたGUS遺伝子の発現量が著しく減少した。この結果は、Tnosを用いた場合に転写干渉が起きる事を意味している。さらに、TnosのポリA鎖付加部位をシロイヌナズナおよびタバコ培養細胞で調べたところ、一カ所に収束せず分散していたことから、転写干渉の結果とあわせ、Tnosは適切でない転写終結領域であることが示された。
一方で、Tnosとシロイヌナズナ内在遺伝子の転写終結領域を置換した場合、導入した遺伝子の正味の発現量の増加と転写干渉の抑制が認められた。