抄録
植物は、酸素と食料を供給するばかりでなく、人類の生活を豊かにする様々な物質を供給してくれる。これらの植物の機能をより効率的に利用するためには、個々の遺伝子機能を知ることが必要である。植物では転写レベルの制御が遺伝子発現制御に中心的な役割を果たしており、そのため転写因子の機能、すなわち、転写因子が制御する形質と標的遺伝子群を解明することが、植物機能の有効活用する上で有効な手段であると考えられている。ところが、植物の転写因子遺伝子は、ファミリーを形成し重複遺伝子が数多く存在し、遺伝破壊や相補的なRNA導入等の従来の方法では、植物の転写因子の機能解析が容易ではないことが判ってきた。そこで、我々は転写抑制を強力な転写抑制因子に変換し、これを発現させることによって標的遺伝子の発現を抑制し、欠損型の表現型を誘導する新しい遺伝子サイレンシングシステム(CRES-T法)開発し、これまで困難であった重複した転写因子の機能解明を可能にした。これまでにシロイヌナズナを中心にCRES-T法を用いて個々の転写因子の機能解明を行った結果、マスター因子として機能する様々な転写因子が明らかになってきた。また、このシステムを用いることによって、これまでの変異体では見られなかった代謝経路を有する植物や、環境ストレスに耐性を持つ植物等が作出出来ることが判ってきた。このシステムの概要と、これを用いた有用形質の探索研究について紹介する。