抄録
野外の連続した植生において,降雨は土壌ではなく,まず植生林冠(Canopy)上におちる。すなわち,密度の高い植生においては,群落上部から供給される水分のほとんどはCanopyと接触し(樹冠遮断),枝葉上の乾性沈着の洗浄や樹幹との相互作用をした結果,量的,質的に変化した水が土壌へ供給される。このことは,野外の自然植生における栄養塩循環,水供給を考える上で,植物表面に接触した水についての研究が必要不可欠であることを示している。樹冠遮断の過程で,葉表面上に沈着したNO3-やNH4+のかなりの割合(数10~100%)が吸収される。また, H+が吸収され,植物体内部のK+,Mg2+,Ca2+が溶脱される。これらはクチクラに覆われた葉表面において活発に行われる。葉表面で濃縮した沈着物質は,植物に有害に作用することもあるが,基本的には成長に欠くことのできない栄養塩類の供給源となる。例えば,高山の山頂付近のハイマツ植生では,成長に必要な水分や窒素などの栄養塩類は,主に大気中から供給され,その動態を明らかにすることは,植生成立を理解する上で必要不可欠である。そこで,立山山頂部において,霧,降雨,露,林内雨の測定を行った結果,霧水や露水などによる植生上への水分供給が,降水よりも安定した水分供給源として位置づけられ,高い効率で降下物中の窒素が吸収されていることが明らかになった。