抄録
窒素は非常に安定な気体として大気の約80%を占めるが、それを直接利用できる生物は限られている。一部の微生物が窒素固定により窒素分子を反応性窒素に変換することで、はじめて他の生物が利用することができる。しかし20世紀以降、化石燃料の燃焼や化学肥料の合成による人為的な反応性窒素の生成が増加し、その結果大気中に放出される反応性窒素の量も増加しつつある。大気中に放出された反応性窒素は、雨や雪と共に、またエアロゾルやガスの形で地上に降下する。放出量の増加にともなって降下量も増加し、反応性窒素の降下量は2050年には1990年代前半の約2倍に達すると予測されている。窒素は植物の成長に大きく影響する無機栄養であるため、窒素降下量の増加は植物の一次生産力に影響する。また土壌の富栄養化による種多様性の低下や、土壌の酸性化による有害金属の溶出、栄養塩の溶脱などの可能性が指摘されている。
本講演では、まず、窒素降下に関するこれまでの研究について特に草原生態系を中心に概説し、演者が2006年から行っているモンゴル草原における窒素負荷実験を紹介する。