抄録
陸上植物の生理生態学におけるPAM蛍光計による蛍光解析例を紹介する。
植物は過剰な光エネルギーを熱として散逸している。通常の生理学的条件にある葉でも、日中は吸収した光エネルギーのかなりが熱として散逸される。熱による散逸はNPQ = (Fm -Fm’)/Fm’ として測定することができる。光照射によっておこるチラコイド膜内腔のpHの低下がzeaxanthinの形成やPsbSのプロトン化を引き起こし、これらがNPQを大きくする。越冬時の常緑樹には弱光下でも熱散逸の大きいものがあり、D1の修飾やELIPの関与が示唆されている。
ストレス条件下では植物は慢性的な光阻害を受けていることが多い。慢性的な光阻害は、阻害に修復が追いつかない状態として理解できる。この度合いは、サンプル葉を、エネルギー依存クエンチングやステート変化によるクエンチングが消失するのに十分で最短時間暗黒下におきFv/Fmを測定することによって判断する。系II修復の阻害剤存在下でおこる光阻害の度合いは、Excess(閉じた系II反応中心に到達するエネルギー)によってよく説明できるのに対し、光阻害は酸素発生系のマンガンクラスターの阻害であり、光強度にのみ依存することを示唆する研究もある。マンガンクラスターがほとんど吸収しない赤色光を使った生理学的研究を進めているので、その結果を紹介したい。蛍光パラメータの相互関係にも言及したい。