抄録
我々はモデル作物トマトMicro-Tomを用いて塩ストレスシグナルを利用した果実の甘味改良法の開発を進めている.近年, 乾燥・塩ストレス・ABAに応答して活性化する植物特有のストレス応答性キナーゼが発見された.これは出芽酵母のグルコース代謝調節に関与しているSNF1遺伝子の植物ホモログであり,SNF1関連キナーゼ(SnRK)と呼ばれる.植物SnRKファミリーは栄養代謝に関与するSnRK1と乾燥・塩ストレス・ABA応答に関与するSnRK2およびカルシニューリンB様分子結合キナーゼ(SnRK3/CIPK)の3種類のサブファミリーに分類される.我々は塩ストレスに応答した果実の糖代謝制御に関わる候補シグナル分子としてSnRK2およびCIPKに着目した.そこでトマトESTデータベース(MiBASE)からSnRK2とCIPKの遺伝子情報を抽出し,それらの機能解析に着手した.特異性の高い抗SnRK2抗体と抗CIPK抗体を作製し,トマトの各器官におけるSnRKsの分布をイムノブロットにより解析した.また一過性タンパク質発現実験系によりSnRKsの環境ストレスに応答した活性変動を解析した.
トマトSnRK2ホモログSlSnRK2Cは若い成長期の果実においてタンパク質レベルが顕著に増大した. 塩ストレスに応答した果実の糖度向上メカニズムと果実特異的SnRKsの関係について議論する予定である.