抄録
イネ種子貯蔵蛋白質プロラミンは小胞体(ER)に集積し蛋白質顆粒PBIを形成するのに対し,α-グロブリンは液胞由来蛋白質顆粒PBIIへ輸送される.両蛋白質はシステイン残基を含む三つのコンセンサス配列を有し,分子間および分子内ジスルフィド結合形成が蛋白質顆粒への集積・輸送に重要である.新生ポリペプチド鎖のジスルフィド結合は,酵母ではER内腔において酸化還元酵素 protein disulfide isomerase (PDI) および PDI へ酸化力を供給するフラビン酵素 ER oxidoreductase 1 (ERO1) により形成される.本研究ではイネ種子貯蔵蛋白質の分別集積・輸送の分子機構を明らかにすることを目的とし,胚乳細胞におけるERO1 およびPDIの局在および機能解析を行った.基質蛋白質-PDI-ERO1電子伝達系の最終電子受容体は酸素分子であり,結果,過酸化水素が発生することが報告されている.過酸化水素特異的蛍光プローブを用いてイネ胚乳細胞における過酸化水素発生部位を可視化したところ蛍光がrough ERで観察された.PDIは多重遺伝子族を形成し,イネでは19のPDI-like (PDIL)遺伝子が存在する.ここではPDIL1-1およびPDIL2-3についてそれぞれDsRedおよびGFP融合蛋白質を発現する形質転換イネを作出し,胚乳細胞におけるER内局在部位の比較解析を行った.PDIL1-1欠損体およびPDIL2-3のRNAi形質転換体における貯蔵蛋白質集積・輸送挙動の解析結果とあわせて両 PDI の機能分業について議論する.