抄録
グアニン残基を豊富に持つDNA配列の一部では、1価カチオン(K+, Na+など)の存在下で4分子のグアニン残基が、G-quartetという平面構造を形成し、それがさらに相互作用により重なった、G-quadruplex(グアニン四重鎖)構造を形成する。染色体のテロメア領域にはグアニン四重鎖配列(TTTAGGGの繰り返し配列)が、グアニン四重鎖構造を形成し、テロメラーゼによるテロメア伸張反応を阻害する。最近、動物や原核生物のゲノムを用いたバイオインフォマティクス的解析により、グアニン四重鎖構造をとりうる配列は、ゲノム上に遍在し、遺伝子の上流や、翻訳開始点に密集していることが明らかとなった。さらに、グアニン四重鎖リガンドを投与すると、グアニン四重鎖配列の下流にある転写因子遺伝子の発現が抑制される。これらの知見から、グアニン四重鎖配列は、生物に普遍的なDNAモチーフの一つと予想される。本研究ではシロイヌナズナにおけるグアニン四重鎖立体構造による遺伝子発現制御を調べることを目的としている。まず、シロイヌナズナゲノムにおけるグアニン四重鎖配列を調べた結果、グアニン四重鎖配列は、約1000カ所(約700遺伝子)存在することがわかった。抽出されたグアニン四重鎖配列の類似性と、グアニン四重鎖安定化リガンドを加えたときの、近傍遺伝子における発現変化についても報告する。