抄録
フィトクロムは植物の主要な光受容体の1つである。フィトクロムを介する光シグナル伝達経路を解明するため、本研究では苔類ゼニゴケを用いた。ゼニゴケは基部陸上植物であり、アグロバクテリウムを介した形質転換系が確立されている。これまでにゼニゴケフィトクロム遺伝子(MpPHY)を単離し、Mpphyが一分子種しか存在しないこと、光可逆性を備えたフィトクロム分子であること、さらにMpphyのTyr241残基をHis残基に置換したMpphyY241Hが光可逆性を失うことを示した。今回、MpphyY241H発現株およびRNAiによるMpphyノックダウン株を用いて赤色光応答表現型の探索を行うことで、Mpphyのin vivoでの機能解析を行った。野生株において胞子発芽後の伸長生長阻害および細胞分裂促進、仮根の形成、葉状体切断面における再生が赤色光に依存し、その効果が遠赤色光により打ち消されることを見出した。一方、MpPHYY241H全長をCaMV35Sプロモーターで発現させた株は、暗黒下でも仮根を形成し、葉状体を再生した。Mpphyノックダウン株は野生株とは異なり、遠赤色光非依存的に生殖生長相に移行した。このように、苔類ゼニゴケがフィトクロムを介する明確な光応答を有することから、赤色光信号伝達解明のモデルとして有効であることが期待される。