抄録
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は、青色光による気孔開口を阻害することで速やかに気孔を閉鎖させ、乾燥ストレス下における植物体からの水分の損失を防いでいる。しかしながら、ABAが気孔開口を阻害する詳しい機構については不明である。本研究では、ABAのセカンドメッセンジャーであるホスファチジン酸(PA)による青色光情報伝達の阻害について報告する。ソラマメ表皮および孔辺細胞プロトプラストにPAを添加すると、青色光に応答した気孔開口および気孔開口の駆動力となるH+放出が阻害された。PAの生成阻害剤である1-ブタノールをあらかじめ添加しておくと、ABAによる青色光に応答した気孔開口とH+放出の阻害が部分的に回復した。さらに、PAは青色光受容体フォトトロピンの自己リン酸化には影響を与えず、細胞膜H+-ATPaseのリン酸化を阻害したことから、PAはフォトトロピンとH+-ATPaseをつなぐ情報伝達を阻害することが考えられた。そこで、PAが青色光情報伝達のポジティブレギュレーターであるプロテインホスファターゼ1(PP1)に与える影響について調べたところ、PAはPP1と結合しそのホスファターゼ活性を低下させることが分かった。以上の結果から、ABAはPAを介して青色光情報伝達を阻害すること、またPP1がABAによる開口阻害の標的因子となる可能性が示唆された。