抄録
過酸化脂質の分解で生じるα,β-不飽和アルデヒド(2-alkenals)はタンパク質や核酸を修飾する強い求電子剤である.2-alkenalsは葉緑体カルビン回路を阻害するがチラコイド電子伝達活性には影響しない.2-alkenalを特異的に解毒する酵素2-alkenal reductase(AER)を過剰発現させたタバコは強光およびパラコートに耐性を示す.本研究ではAER過剰発現による強光耐性機構の解明をめざし,強光で生成するアルデヒド種を同定した.光強度100 μE/m2/sで栽培したAER過剰発現タバコは,野生株SR1に比べ,強光照射(2000 μE/m2/s)によるFv/Fm低下が,より小さかった.強光照射30分で,野生株では4-hydroxy-2-hexenal(HHE),アクロレインなどの2-alkenalsが増大したが,AER発現株ではこれらは増大しなかった.この結果から,強光照射によって生じたHHEなどが葉緑体カルビン回路を阻害し,光過剰状態をつくり光阻害をもたらすことが示された.さらに,強光照射しない状態でも,AER発現株のPSII光化学反応電子フラックス,CO2固定最大速度およびカルビン回路酵素含量は,SR1より大きかった.これは弱光条件下でも定常的に2-alkenalsが生成し,カルビン回路を抑制していることを示唆する.