抄録
発芽直後の光合成装置の構築は大量の窒素を必要とし、高濃度の糖処理下や窒素欠乏状況下では抑制される。そのため、培地中の糖濃度の変化に応じて光合成装置構築に異常を示す変異体を解析することにより、糖・窒素代謝の制御機構を明らかにする上での重要な知見が得られると考えられる。これまでに、100 mM ショ糖およびグルコース添加培地上で、子葉や展開中の第1、第2本葉の緑化が抑制される変異株(sicy-192)を単離し、プラスチド局在型の塩基性/中性インベルターゼをコードする遺伝子(INV-E)に点突然変異(Cys294がTyrへ置換)が生じていることを明らかにした。SALKのINV-Eノックアウト株ではsicy-192の表現型が現れなかったが、INV-Eノックアウト株へ変異型INV-E(INV-E:C294Y)を発現させると、sicy-192株と同様の表現型が現れた。INV-E:C294Yの酵素学的性質は、野生型INV-Eと同じであったが、INV-EのCys294が糖応答に重要であることが示唆された。さらに、糖処理後の種々の遺伝子発現レベルを比較したところ、sicy-192の幼植物は野性株と比べ光合成関連遺伝子の発現が抑制されるだけでなく、硝酸還元酵素の活性が上昇していた。以上の結果より、INV-EのCys294は、光合成装置構築時おける炭素・窒素代謝バランス制御に重要であることが示唆された。