抄録
フタテンチビヨコバイは九州中部を北限として旧大陸の熱帯~亜熱帯に広く分布する昆虫で、様々なイネ科植物を寄主とする。本種に加害されたイネやトウモロコシでは、葉脈がこぶ状に隆起してゴール化するとともに、新規展開葉の生長が著しく抑制され萎縮する。この症状はワラビー萎縮症と呼ばれ、九州の飼料用夏播きトウモロコシでは、本症状による生産性の大幅な低下が問題となっている。ゴールや萎縮症は、ヨコバイの雌雄や成虫・幼虫を問わず、本種の吸汁時に展開する葉に生じることや、ヨコバイ除去後に展開する葉では発症しないこと、ヨコバイの密度や吸汁時間に依存して劇症化することなどから、ヨコバイが摂食時に植物体内に注入する化学物質が茎頂分裂組織や葉原基に作用することにより発症すると考えられる。
本種によるゴール形成機構を明らかにするため、LC-ESI-MS/MSを用いた一斉解析により、イネの吸汁葉やゴール形成葉、トウモロコシの茎頂分裂組織における植物ホルモンの定量を行った。その結果、イネの感受性品種では、コントロールに比べてゴール形成葉におけるサリチル酸量が少なくアブシジン酸量が多いこと、こうした違いは抵抗性品種では見られないこと、トウモロコシでは、ヨコバイによる吸汁開始から数日以内に茎頂分裂組織周辺にアブシジン酸が大量に蓄積することなどが明らかになった。結果を踏まえ、本種によるゴール形成機構について考察する。