抄録
被子植物を用いた実験において単離した植物細胞はオーキシン存在下で培養すると、細胞の分化転換を経て完全な植物体に再生するが、これらの過程におけるオーキシンの作用のしくみは不明な点が多い。我々は幹細胞への分化転換におけるオーキシンシグナリングの役割を明らかにするために、高い分化転換能を持つヒメツリガネゴケを用いて研究を進めている。ヒメツリガネゴケでは葉を茎葉体から切り離し光条件下で培養すると、切断面の細胞が原糸体幹細胞に分化転換するが、この過程は抗オーキシンBH-IAAによって抑制された。BH-IAAはオーキシン受容体TIR1に対しオーキシンと競合することで、その下流のオーキシン応答性転写調節因子ARFを介した転写制御を抑制するものと考えられている。よって、葉細胞から原糸体細胞への分化転換にはARFを介した遺伝子発現ネットワークが重要であるものと考えられる。そこでネットワーク解明の足掛かりとして、ヒメツリガネゴケの全ARF遺伝子の同定と単離を行った。その結果、13の遺伝子の存在を確認し、またこれらのうちの4遺伝子ではスプライスバリアントが存在することを明らかにした。現在、葉細胞の分化転換に関わるARFを同定するために、分化転換期のARF遺伝子発現解析および熱ショック誘導型のARF高発現株、機能欠損株の作成を進めており、これらについても報告する予定である。