抄録
インドネシア,リアウ州トゥビンティンギ島では,今日,サゴヤシデンプンは,一般的には主食用ではなく,菓子製造用に利用されている.当島でのサゴデンプンの伝統的抽出方法では,約1mの長さに切断したサゴヤシ樹幹(ログ)2本を1組として剥皮後,髄部を大型のオロシガネで粉砕する.そして,小川や池の近くに設営されたプラットフォームにナイロンメッシュを篩いとして広げ,その上に粉砕髄を載せて,水をかけながら足で踏み出しながら抽出する.本調査では,この島におけるサゴヤシデンプンの伝統的抽出方法による抽出効率について,化学的に分析した結果との比較において検討した.供試した各ログ髄部のデンプン含有率は平均値で70.5%で,収穫適期樹と判断された.伝統的方法によるデンプン収量は,ログ2本当たり平均値で32.3kgであり,この値は化学的に分析したデンプン収量の平均値67.1kgの48.0%であった.抽出残渣の乾物重当たりのデンプン含有率は,平均55.7%で,抽出残渣中のデンプン含有量は,ログ2本当たり平均値で35.1kgであった.この値は,化学分析によるデンプン収量の52.1%に相当した.抽出終了後の粉砕髄を走査型電子顕微鏡で観察した結果,柔細胞の外側にはデンプン粒は残存していなかった.しかし,細胞壁が破断されていない髄部柔細胞が多数観察され,その内部には多数のデンプン粒が存在した.以上より,インドネシア,リアウ州トゥビンティンギ島における伝統的方法によるサゴヤシデンプンの抽出効率は約50%であり,抽出効率がこのように低い原因として,サゴヤシ髄部の粉砕方法に問題があることが示唆された.