抄録
ジャスモン酸は、病傷害に対する抵抗性、花粉の成熟と葯の裂開、老化促進、離層形成などの作用を持つ多機能な生理活性物質である。ジャスモン酸生合成の最初の反応は、リパーゼによって葉緑体の膜脂質からリノレン酸が切り出されることである。この反応に関わるリパーゼとして、我々はシロイヌナズナのDAD1およびDAD1-LIKE LIPASE1~6(DAL1~6)を見出し、これらには機能分担があるらしいことを明らかにしてきた。しかし、どのように使い分けられているかはまだよく分かっていない。そこで、まだ発現プロファイルが詳細に調べられていないDAL1~6について、それぞれのプロモーター領域をGUSレポーター遺伝子に連結してシロイヌナズナに導入し、これらの遺伝子がいつ、どのような条件下で、どこで発現しているかを解析した。現時点で結果が得られているDAL1,2,5,6に関して、まず、通常の生育条件下で最も多くのジャスモン酸が作られるつぼみで、DAL1,2,6が発現していた。ただし、つぼみの中でのジャスモン酸生合成部位と考えられている雄しべの花糸で発現していたのはDAL2のみであった。また、傷害を加えた葉では、DAL1,2,5,6全ての発現が認められたが、発現している細胞は遺伝子によって異なっていた。DALの中には、ジャスモン酸生合成を直接触媒するのではなく関連した別の機能を持つものもあるかもしれない。