抄録
植物バイオマスの中でも種子油は、バイオディーゼル燃料や合成樹脂原料などのバイオマス資源として期待されている。一方で、植物種子中の油脂貯蔵メカニズムは不明な点が多く、油脂生産量の向上に結びつく分子育種の例は少ない。
そこで本研究では種子の油脂含量に関与する遺伝子の探索を目的に、CRES-T法を用いて約200種類の転写因子-転写抑制ドメイン融合遺伝子を発現したシロイヌナズナを作製し、T2種子中の油脂含量を1H-pulse NMRを用いて定量した。その結果、種子の油脂含量が1割以上増加した系統を複数見出した。これらの油脂含量増加系統の脂肪酸組成は変化せず、その内数系統では種子収量および植物体乾物重が増加した。CRES-T法が転写因子の機能解析のみでなく種子貯蔵油脂の量的形質の改変に有効であることが示された。また、油脂含量が増加した系統には種皮が黄色の表現系を示す系統が複数含まれそれらはフェニルプロパノイド合成系の制御因子に対するキメラリプレッサーを導入した株であり、種皮色と油脂含量の関連性が示唆された。これらの油脂バイオマスが増加した系統において、DNAアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行った結果より、転写因子-転写抑制ドメイン融合遺伝子と油脂生産のカスケードについて考察する。