抄録
葉緑体遺伝子から転写されたmRNA前駆体はRNA鎖切断、RNAスプライシング、RNAエディティング、トリミングなど複雑な過程を経て成熟mRNAとなる。葉緑体mRNAの5’非翻訳領域は数十から数百ヌクレオチドの長さであり、葉緑体内では転写開始点からのものと途中で切断されて短くなったものが混在している場合が多い。この5’非翻訳領域の切断が翻訳効率に影響するかどうかを植物体(in vivo)を用いて調べるのは難しいので、我々の開発した試験管内(in vitro)翻訳系を用いて解析した。翻訳反応は、mRNA鋳型が不飽和で、反応がほぼ直線的に進行する時間内で測定した。今回は、タバコ葉緑体のatpIとpsaCの各mRNAについて調べた。atpI mRNAはコード領域上流-208と-131から転写が開始され、-85に切断点がある。2箇所の転写開始点からのmRNAはいずれもほぼ同程度に翻訳されたが、-85で切断されたmRNAは極めて高い翻訳活性を示した。psaC mRNAは上流-234から転写され、-173に切断点がある。この場合も同様に切断されたmRNAがより強く翻訳された。これらの結果をもとに5’非翻訳領域の切断の意義を考察する。