抄録
イネでは、菌類のMAMPsの一つであるキチンオリゴ糖(CE)に対する細胞膜局在性の受容体としてCEBiPが同定されている。CEBiPはイネの基礎的防御応答に寄与するが、イネを宿主とする菌類は、その防御機構を打破して感染を果たす。我々はイネの菌類病抵抗性を向上させるために、CEBiP下流の防御応答シグナルの改変を試みた。CEBiPのCE結合領域と、受容体型プロテインキナーゼであるイネ白葉枯病R遺伝子産物XA21の細胞内領域を連結したキメラ受容体(CRXA)を導入したイネ培養細胞では、CE特異的にHR様の防御応答が誘導される(昨年度本大会)。このHR様反応はキナーゼ活性欠損型のキメラ受容体を導入した培養細胞では起動されないことから、CE受容シグナルがタンパク質のリン酸化を介して、HR誘導シグナルに変換されたと考えられた。CRXA発現イネに半活物菌であるイネいもち病菌を接種した結果、感染部の活性酸素蓄積が非形質転換体よりも促進され、病斑形成が抑制された。一方、殺生菌のイネごま葉枯病菌や細菌のイネ白葉枯病菌に対する抵抗性の変化は認められなかった。これらの結果は、CRXA発現イネではいもち病菌由来のCEによってHRが誘導され、病害抵抗性が向上したことを強く示唆している。しかし、死細胞などの腐生環境を好む殺生菌やキチンを持たない細菌には、CE誘導的なHRは有効ではないと考えられる。