抄録
我々はイネの抵抗性(R)遺伝子とその下流の因子の単離を目指して、イネ内在性レトロトランスポゾンTos17を利用した遺伝子破壊系統を用いて解析を進めている。本年度は、いもち病R遺伝子であるPishの単離と機能解析について報告する。Pishによって誘導される抵抗性反応は不完全であるため、これまでPish遺伝子の解析は困難であり、その遺伝子は特定されていなかった。そこで、Pishによる真性抵抗性を完全に喪失した変異体を選抜し、Tos17との連鎖解析によりPish遺伝子の単離を試みた。相補試験の結果、第1染色体長腕上に存在するNBS-LRR型の遺伝子がPishであることが確かめられた。Pishの発現量について解析したところ、いもち病菌接種による発現誘導は認められず、恒常的に発現していることが明らかとなった。また、N. benthamianaを用いて一過的に高発現させたところ、活性酸素生成および細胞死の誘導が認められた。Pish遺伝子近傍には非常に高く保存されたNBS-LRR遺伝子が他に3個並んでおり、Tos17のFSTデータベースから、これらの遺伝子座はTos17によるホットスポットであると考えられた。そこで、Tos17の挿入について詳細に解析したところ、4つのNBS-LRR遺伝子間においてTos17の挿入に大きな偏りがみられた。このことは、R遺伝子の進化を考える上で非常に興味深い。