抄録
トマトの水耕栽培で根だけを12℃に冷やすと果実の糖度が高まる。果実の肥大期には一時的にデンプンが蓄積し成熟期には消滅、それに伴いブドウ糖と果糖が増加するパターンは根域冷却の有無で変わらない。しかし根域冷却によりデンプンが著しく増加し、果実当たりのデンプン蓄積の増加は成熟後の果糖やブドウ糖の増加にほぼ匹敵する。デンプン量の変化と関連酵素の遺伝子発現パターンとよく似る。ところが糖度上昇に直接関与するとされるインベルターゼLIN5 (細胞壁) とTIV1 (液胞) の遺伝子発現は根域冷却でむしろ抑制される。本研究ではこの矛盾を解明するために関連酵素の活性を比較検討した。その結果、可溶性画分の酸性インベルターゼ活性はTIV1遺伝子発現とほぼ同じ挙動を示す一方で、不溶性画分の中性インベルターゼ活性はLIN5遺伝子とは異なり、根域冷却でむしろ促進された。しかしその大きさで糖度上昇を説明するには不十分と思われる。一方デンプン分解に関与すると推定されるショ糖リン酸合成酵素 (SPS) 活性は開花後40日の果実肥大期には 根域冷却で著しく高く、果実の成熟に伴い低下した。この挙動はデンプン量の変化とも一致している。ショ糖リン酸ホスファターゼ (SPP) 活性も同じ傾向を示し、糖度上昇への関与を示唆するものの、同様にデンプン分解に関与すると考えられるSuSyでは根域冷却による活性促進は認められなかった。