陸水物理学会報
Online ISSN : 2758-7231
第43回研究発表会(2022釧路大会)
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Coriolis 力の実験におけるスマートフォンの活用
*戸田 孝
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p. 18-19

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抄録
流体地球物理学において、海洋や気象などでは地球自転効果(Coriolis 効果)がほとんどの状況で重要であるし、陸水現象でも琵琶湖全体を巡るような大きな規模の現象、例えば琵琶湖環流(戸田2014)などでは考慮が不可欠となる。これはもちろん数式的な記述が可能であるが、数式的理解と直感的理解との間のギャップが他の力学的原理と比べても大きくなってしまう傾向がある。単に結果としてCoriolis 力が横向きに作用することを感じるのは容易であるが、それを定性的な幾何学的論理の積み上げで理解しようとすると、動径方向の運動と半径方向の運動の各々で作用するCoriolis 力を統一的に理解することが困難であるなど直感的理解の妨げとなる事実が多々あり、しかもそれらが数式的には全く同一という事実がさらに混乱を招く。 Coriolis 力を直感的に理解する最も確実な方法は、観察者自身が回転系の中に入って実験することである。このような体験ができる公開施設として、日本国内では1996 年開館の滋賀県立琵琶湖博物館(戸田1998a, 1998b)と2003 年開館の青森県立三沢航空科学館で回転実験室が運用されていたが、各々2016 年および2021 年公開のリニューアルを機に廃止された。八王子市こども科学館にも回転実験装置があるが、安全性を優先して回転の角速度も速度も極めて遅くしているため、Coriolis効果以外の影響が無視できなくなってしまっている。他には、管見の限りでは気象庁気象研究所の研究用回転実験装置が期日限定で一般公開されているのを残すのみである。 もちろん、回転系の力学を体感できる実験装置は各地の科学館に存在するが、その多くは角運動量保存の観点に基づくものであり、Coriolis 力を直接体感できるものは少ないようである。これは、Coriolis 力そのものを体感するには、観察者が回転系の中に入ったうえ、観察者自身または直接認識できる物体が移動する必要があり、少なくとも直径 3m 程度以上の回転実験室が必要になるため、製作や維持管理の費用はもちろん設置スペースの確保にも困難を来すからであると考えられる。 滋賀県立琵琶湖博物館では地域の自然環境や生活環境を広く扱っており、物理現象に関する疑問等への対応の需要は依然として多い。そこで、この状況への効果的な対応方法を探るべく、「琵琶湖地域の物理現象」に特化した期間限定の展示企画「平成3年度第2 回ギャラリー展示 琵琶湖の虹が映(ば)える理由(わけ)―湖の「なぜ」がわかる物理学―」を2022 年1 月4 日~3 月6 日に開催した。この中で、廃止された回転実験室に代わる手法の開発を試みた(戸田2022a, 2022b)ので、その結果に基づいて考察を加える。
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© 2022 陸水物理学会
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