抄録
移動という逃避手段を持たない植物にとって,急激な環境の変化は大きなストレスであり,随時,適応していかなくてはならない。その中でも低温は,迅速に対応しなくてはならない主要な環境ストレスのひとつである。温帯域や亜寒帯域に生育する植物の多くは、“低温馴化”と呼ばれる機構を持ち、あるレベルの低温ストレスに晒されると、より強い耐冷性、時には耐凍性をも獲得する。我々は低温ストレスに応答したmRNA分解による遺伝子発現制御に注目した研究を進めている。マイクロアレイと転写阻害剤を組み合わせた網羅的解析により、低温ストレス応答において、mRNA分解の段階で制御されている遺伝子を見出すことができる。我々は、低温馴化の分子レベルの解析のため,植物体をより単純化した系としてシロイヌナズナの培養細胞株(T87)を用いることを検討した。T87細胞では生育段階によって低温馴化応答が異なっており、生育初期の培養細胞の方が低温に対して感受性が強く、それゆえに低温馴化による耐凍性の増加が顕著にみられる。この生育初期の培養細胞を用いた網羅的解析から、いくつかの遺伝子において、mRNA分解制御がそのmRNA量の調節に大きく関わっていることが明らかとなった。