抄録
クロロフィルは光合成において中心的な役割を担っているが、タンパク質と結合していないクロロフィルは光に当たると活性酸素を発生させる危険な分子となる。そのため、老化過程ではクロロフィルを安全な分子に転換する必要がある。クロロフィル分解に関わる酵素の多くは還元力を必要とする反応である。しかし、還元力がどのようにクロロフィル分解に供給されるのかは明らかではない。そこで、クロロフィル分解過程での還元力供給メカニズムについて新たな知見を得るため、クロロフィル分解の中間生成物を蓄積するシロイヌナズナの変異体(hmc2)の解析と原因遺伝子産物の生化学的解析を行ったので報告する。hmc2変異体は、2つのクロロフィル分解中間生成物、7-ヒドロキシメチルクロロフィルaとフェオフォルビドaを蓄積した。このことは、それらを基質とする7-ヒドロキシメチルクロロフィルaレダクターゼと、フェオフォルビドaオキシゲナーゼの活性が阻害されていることを示唆している。HMC2のアミノ酸配列の解析により、フラビン結合領域の存在が明らかとなった。また、大腸菌のHMC2組み換え体を用いた解析により、HMC2はジチオナイトの添加で吸収スペクトルを変化させるフラビンを保持することが示された。これらのことから、HMC2がクロロフィル分解における還元力の供給に関与していることが示唆された。