抄録
有性生殖をする植物において、受精は子孫を残すために鍵となるイベントである。雄の精細胞を含む花粉が雌しべの柱頭に付着したのち、花粉管が発芽し、雌しべ内部を伸長し、精細胞は胚珠へと運ばれる。花粉管は胚珠からのシグナルをうけて伸長することが知られている。また、花粉管は同種の胚珠にのみ誘引され、近縁種の胚珠には誘引されないことから、花粉管と胚珠との認識が受精の成功と種の維持とを保証する分子メカニズムの1つとなっていると考えられている。近年我々は、ゴマノハグサ科の植物Torenia fournieri より、花粉管誘引物質としてシステインに富んだ低分子量分泌型タンパク質LUREs を同定した。LUREs の属するDifensin-like スーパーファミリーのタンパク質は一般に進化速度が速く配列の多様性に富むことが知られているため、LUREs の配列の多様性が種間認識を担っている可能性が指摘された。このことを明らかにするため、我々はT. fournieri の近縁種より、LUREs の相同遺伝子を単離した。ある遺伝子は発現が見られず、その構造に重要なアミノ酸が置換されていたことから、偽遺伝子化していることが示唆された。また他のLURE 遺伝子については、T. fournieri 同様、胚珠特異的な発現が確認された。現在、これらの遺伝子産物を精製し、その花粉管誘引活性について検討している。