抄録
ゲノミクスの進展により、数多くのマイクロアレイデータが蓄積してきており、生物システムの理解に役立っている。公的に利用可能なマイクロアレイデータを用いた遺伝子共発現解析は、細胞内トランスクリプトームの組織化原理を探る研究や機能未知遺伝子の特徴づけに関して有用であることが、多くの種で示されてきた。この中で、モデル作物のイネ (Oryza sativa) における遺伝子共発現クラスタ (共発現ネットワークノードの集まり) の包括的な検討はほとんどなされていない。本研究は230枚以上のマイクロアレイデータにわたった4,495個の遺伝子から構築したイネの共発現ネットワークをグラフクラスタリングに供した。そのネットワークトポロジーは、典型的なスケールフリー次数分布を示した。互いに密にリンクした遺伝子群を抽出するグラフクラスタリング手法 (DPClus) を用いて、1,220個の共発現クラスタが得られた。これらクラスタを遺伝子オントロジー解析によって特徴付けた。このようなアプローチは機能未知遺伝子の機能解析に向けた新たな実験仮説を容易に与え、作物種における共発現アプローチの重要性を示している。計算に用いた共発現データはウェブサイトPRIMeからダウンロード可能である (http://prime.psc.riken.jp/rico/index.html)。