抄録
マメ科植物-根粒菌の共生では、土壌中の根粒菌を根粒内に導くための感染経路を構築する「感染糸形成」と、根の皮層細胞分裂によって始まる「根粒器官形成」の両プログラムが同調的に進行することにより、窒素固定の場となる根粒が形成される。
近年、マメ科モデル植物ミヤコグサより、根粒菌との共生に必須な遺伝子が単離されている。これらの共生遺伝子は、表皮における「感染糸形成」、皮層における「根粒器官形成」の両局面において重要な役割を果たすと考えられているが、各過程における共生遺伝子の機能様式の詳細を明らかにするためには表皮および皮層の分離解析系が不可欠であった。
我々は、表皮と皮層の分離解析を可能にする「表皮特異的発現系」の確立を目指し、シロイヌナズナ根毛細胞で特異的に発現するExpansin遺伝子、AtEXPA7およびAtEXPA18遺伝子のミヤコグサホモログを単離し、表皮特異的発現を規定する特徴的なシス配列を含む領域を表皮発現プロモーター候補とし、ミヤコグサ根表皮において、表皮特異的な発現を示すプロモーター領域を選定した。同プロモーターを用いて構築したミヤコグサ表皮特異的発現系を用いて、様々な共生遺伝子の変異体について相補性試験を行うことにより、当該遺伝子の「感染糸形成」過程への関与について検証した。解析結果を基に、根粒菌感染初期過程を制御する共生遺伝子の機能様式について議論する。