抄録
ガス交換を担う気孔の密度の適切な制御は,植物の生存に必須である.昨年度の本大会では,気孔の分化を促進する新規のペプチドの同定について報告した.今回は,そのペプチドをstomagenと命名し,生化学的解析と遺伝学的解析を行った.
Stomagenは前駆体として合成され,その後プロセスされ45アミノ酸からなるペプチドに変換する.タバコ培養細胞BY-2で発現・精製したstomagenおよび化学合成したstomagenは,双方とも濃度依存的にシロイヌナズナの葉の気孔密度を増加させる活性を示した.この45アミノ酸の機能ドメインは他のドメインとは異なり,シダを含む多くの植物で高度に保存されていた.遺伝学的な解析により,STOMAGENの機能発現には,正常な気孔分化に必要なLRR型受容体様遺伝子TOO MANY MOUTH(TMM)が必要であることが分かった.TMMは気孔分化の抑制遺伝子EPIDERMAL PATTERNING FACTOR(EPF)1とEPF2が働くためにも必要である.したがって気孔密度は促進ペプチドstomagenと抑制ペプチドEPF1・EPF2の拮抗的な作用により制御されている可能性が浮上した.また,STOMAGENは葉肉組織で発現し,EPF1・EPF2は表皮組織で発現するという結果は,葉肉-表皮の組織間シグナリング依存的な新しい気孔密度決定メカニズムの存在を示している.