抄録
100を超す栄養細胞が一列に連なった糸状体を形成するシアノバクテリアには,数種類の分化細胞を形成するものがいる。窒素欠乏により誘導されるヘテロシスト(異質細胞)は窒素固定に特殊化した分化細胞であり,10から15細胞おきに1個の割合で形成される。嫌気的環境を必要とする窒素固定を行うため,ヘテロシストの内部では呼吸活性が増強され,また酸素を発生する光化学系IIが不活性化されている。さらに,酸素の流入を妨げる膜系が細胞壁の外側に形成される。窒素固定に必要なATPと還元力は,栄養細胞から受け取った多糖の代謝により作り出され,そしてヘテロシストにおいて作り出された窒素化合物は栄養細胞へと送り返される。これら2種類の細胞は,糸状体の中で相互に依存した関係を作り上げている。ヘテロシスト分化は,バクテリアにおけるパターン形成と細胞分化のモデルとなっている。
ヘテロシスト分化は培地から窒素源を除いた後24時間で完了する。その間に,全遺伝子の1割を超す遺伝子の発現が,時間的,空間的な制御を受けながら変動する。これまでの解析により,NtcA, NrrAそしてHetRの3個の転写因子がネットワークを形成し,遺伝子発現制御に中心的な役割を果たしていることが示された。今回,詳細なマイクロアレイ解析により新たな制御因子の同定を試みたので報告する。