抄録
ニンジンの不定胚発生は,最初に報告された不定胚発生現象であり,現在でも最も不定胚の誘導し易い植物種のひとつとして研究に用いられている。我々はこれまで,ニンジンの不定胚発生メカニズムに関する研究を行ってきているが,その過程で不定胚誘導時の環境要因が不定胚形成に与える影響について興味を抱いたため,その影響を明らかにするために実験を行った。ニンジン(Daucus carota L. cv. US-Harumakigosun)の播種後9日目の実生胚軸に,合成オーキシンである2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D)を4.5x10-6 M含む改変MS固型培地上で培養し,その後植物ホルモンを含まない改変MS培地上に移植し,不定胚を誘導した。この不定胚誘導系において,少なくとも22˚Cから28˚Cの温度範囲で,温度上昇に比例して不定胚形成率が変化することを明らかにした。一方,光条件については,2,4-D処理時,2,4-D除去時とも,光を与えた処理区において不定胚形成率が高くなることを見出した。一方,ニンジン茎頂部からの2,4-Dによる不定胚誘導においては,光の効果は見られなかった。これらの環境要因がニンジンの不定胚形成にどのような影響を与えているのか,胚発生能獲得や,胚形成にどのように結びついているかについて,得られた結果を基に議論する。